2009年8月23日日曜日

ケインズ像を語る書

ケインズ像を語る書  

多面的な天才であったと言われるケインズについて書かれた著作は多いが、あえてジル・ドスタレールはそのことを重々承知の上に書いたと思われる「ケインズの闘い」の特徴は、たんに経済学者としてのケインズの仕事の評価でだけでなく、ケインズの倫理学、政治、芸術などとの関連まで行っていた事を取り上げて、ケインズが社会についての総合的な理解を提示していた事実を強調していることである。
 ケインズという人のイメージはいままでは、不況時の赤字財政による公共投資政策と結び付けて語られる事が多いだけに、そのような語りは私達にとって啓発的であると思われる。
しかし、一次文献まで渉猟した著者のジル・ドスタレールの仕事は、必ずしもオリジナルというわけではないと思うが、私達、読者がケインズという20世紀が生んだ偉大な英国人を知るには大変に興味深いものである。
 更に特徴をあげれば、社会主義崩壊後のケインズの考え方や理論の再評価をしているものと思われる。
ベルリンの壁崩壊後、「市場原理主義」や「新自由主義」が経済論壇を席巻したが、最近になってようやく市場経済に頼っていただけでは経済格差などが拡大し、社会的公正を確保できないことが
私達にも問題視できるようになった。
ケインズという人は、早い段階から、経済効率と個人の自由と並んで社会的公正を適切に組み合わせなければ政治問題を解決できないという認識もっていたが、ジル・ドスタレールは、ケインズがその問題を「十分に組織されていない社会や人間的誤謬の結果」であると考えた上で、いわゆる自由放任主義の弊害を具体的に論じている。
 特に著者のジル・ドスタレールのケインズ経済学の解釈に異論はないが、ケインズが幅広い活動を総体的に提示しようとした事に賞賛をしたいと思う。
多少大部の書であるが関心のある方には一読することを勧めたい本である。

「ジル・ドスタレール」
1946年、カナダ生まれ。
著書にハイエクの自由主義などがある。

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