父が子話した童話「はだか兎 」
素盞鳴命から何代も何代もたってから、大国主命という神様がお生まれになりました。 不思議なことに、大国主命には別に、「大あなむらじの命」だの、「あしはらしこをの命」だの、「八千ほこの命」だの、「うつしくにたまの命」などといういろいろなお名がついておりました。
この大国主命には八十神といって、とても大勢のお兄様がありました。ところがどうしたことか、大国主命はとても慈悲深いやさしいお心でいて、だれも相手ができないほど強くて、勇ましいお方だったのです。
それなのにどうしたわけか、大勢のお兄様たちは揃いも揃って、とても意地悪の、根性曲がりばかりでした。
ちょうどこのころに、因幡の国に八上姫という、とてもとても綺麗なお嬢さんが住んでいました。
なにしろ評判の美人でしたので、大国主命のお兄様は、ぜひ八上姫をじぶんのおよめさんにもらいたいと思っていました。
そこでいろいろと考えたすえに、弟の大国主命を騙して、自分達の召使と思われるような粗末な姿にさせました。
そうして大国主命には、大きな袋をせおわせて、じぶん達はめいめいが、ピカピカ光る一番上等の、よそゆきの服を着ておめかしをしました。
こうして歩けば、だれがみても大国主命はお兄様たちの召使にしかみえませんでした。
こうしてみんなは八上姫のところへ出かけました。
大昔のことですから、汽車も電車もありません。なにしろ遠い遠い因幡の国へ、テクテクと歩いてゆくのですから大変です。
いくらげんきな大国主命でも、大勢のお兄様たちの荷物を一杯入れた大袋を背負ってあるくのですから、だんだんくたびれて、気多の岬というところへ来た時には、お兄様たちとは、ずいぶん離れてしまいました。
「弟のノロマめッ」と、ののしりながら、身軽なお兄様たちは平気でずんずんすすんでゆきます。
そのうちに一匹のうさぎが、どうしたわけか皮をはがれて、すっかり赤裸になって、寒そうに震えながら、泣いているではありませんか。
もともといたずら好きの八十神たちは、兎が赤はだかになって泣いているのをみると、これは面白いとばかりに、
「これこれ、おまえはヒドク寒そうじゃないか。早くあったかくなる方法を教えてやろう」
「ありがとうございます。どうかよろしくおねがいいたします」
「よしよし、まず海へ行って、うんと潮水をあびて来い。
そのあと岩さきに立って、よく風に吹かれるのじゃ。だんだんいい気持ちになって、ウツラウツラするうちに、まっ白な毛がフワフワ生えてくるぞ」
さもほんとうらしく、八十神たちは口から出まかせのうそをついて、ペロリと舌を出して、行ってしまいました。
うそとはしらない兎はもう大喜びです。八十神たちの後ろ姿を拝んで、さっそく教えられたとおり、一生懸命潮水をあびては、風に吹かれていましたが、いい気持ちになって、いまに毛が生えてくるどころか、潮水がかわいてくるのといっしょに、ピリピリとはだがさけてきて、そのさけ目から血がふき出てきたではありませんか。
その痛いこと痛いことといったら、兎はとてもがまんできません。兎はそこら中をころげまわって、「痛いよ!痛いよ!」と泣きさけんでいるところへ、お兄様たちからすっかりおくれてしまった大国主命が通りかかりました。
泣きさけんでいる兎をごらんになった命は、「オイオイ、どうしたんじゃ」
とおききになりました。命のお声をきいた兎は、おそるおそる命を見上げますと、さきに大勢通りすぎて行った八十神たちとは、すっかり様子がちがいます。
そまつな服をきているのに、この人は見ただけで、とてもやさしそうな目をしていて、まるっきり感じがちがいます。
そこで兎は安心して、命にすっかりお話をしました。
「わたくしはもともと因幡の者ですが、あるとき大洪水にあって、すんでいた竹やぶと一緒に流されて、おきの国へつきました。
どうにかして故郷へかえりたいとおもって、いろいろ工夫をしましたが、空もとべないし、海をおよぐこともできません。