母が子に話しました
「返事は元気良くしましょう」と!!
今日はめずらしく、ゆっくりした気持ちで、お母さんとおばあさんは、はじめ君とカナちゃんの仲間入りをして、おやつのおせんべいをバリバリたべながらお話をしていました。
「私きょう本を送るので、郵便局へ行ってきたんですけどね、ずうっと前から、銀行や郵便局へ行くたびに感じていたことを、きょうもまた、感じてかえってきましたわ」 お母さんがそういうと、
「お母さんが何を感じたか、あててみようか?」おばあちゃんがニヤニヤしながら、そういいました。「おばあちゃん、どんなこと?早くいってよ」はじめ君とカナちゃんが、声をそろえて催促しました。
「アラ!おばあちゃんわかります?当ったらおせんべいもう一枚贈呈!」お母さんがおもしろそうに、ふざけていいました。
「エッヘン、ではただいまより申し上げます。それはですね、だれもみな、じぶんの名をよばれても、返事をしない、ということでしょう」
「まァ、当り!!さすが千軍万馬{せんぐんばんば}(経験の豊富なこと)のおばあちゃんだけあるワ!」お母さんがうれしそうに、でもスッとんきょうな声をあげました。
「まさにその通りなんです。だってね、○○さん、って係の人が名を呼ぶでしょう。それなのに、誰も返事をしないんですよ。
私はまた、大事な用事できていながら、一体どこへ行ってしまったんだろうと、心配してあげていたら、もう一度係の人から、○○さんいますか?ときかれて、やっと呼ばれたらしい人が、のっそりと黙って、その係の人の前に行くじゃありませんか。
それが、その人一人だけじゃないんですよね。若い人も年取った人も、男、女のくべつなくみんな、申し合せたように、呼ばれても返事しないで、ぶあいそうな顔をして、通帳やお金をヒッタクルように取って、出て行くのです。たまぁに返事をする人もいますけど、それがまた、係の人にはきこえないような、ひくい声なの。
ねえ、どうせ返事をするなら、なぜもっと、ハイ!て元気よくいえないものかしら」「ふしぎだねえ、お母さんとわたしは、考え方がピッタリこんじゃない!全くお母さんとおなじことを、おばあちゃんも思っていたんだよ。
昔、昔って、おばあちゃんはすぐ、昔のことを持ちだすけどさ、ずうっと昔はこんなじゃアなかったと思うよ。
つんぼさんならしかたないけど、ちゃんときこえる耳を持っているんだったら、自分の名前をよばれて、しらん顔している人は、いなかったと思うよ」
「ボクら、名前よばれたら、ハイッて、返事するよ!みんな、ねえカナ?」「うん!返事するわよ。しなかったら先生にしかられるわよ!」カナちゃんが大きな声で、お兄ちゃんにあいづちをうちました。
「どうしてこんなになってしまったんだろうねえ。戦争にまけちゃってから、日本人のいいとこ、皆どっかへ、捨ててしまったみたいで、ホントに悲しくなってしまうよね」おばあちゃんが真から悲しそうな声で、そういいました。
「だってむつかしいこと言うんじゃなくて、たった一言、ハイ!って言えば済むことなんだのに、どうしてその“ハイ”が言えなくなってしまったんでしょう。
わたしの子供の時、小さい声で返事をすると、父がよく、“声がひくいゾッ、なにも食ってないのかッ”ってどなるので、それがいやで、いやでたまりませんでしたワ。
もちろん今の子みたいに、おいしいものたっぷり食べたことなんかありませんでしたけど、ホッホホホ…」
「もしもだよ、じぶんが○○さんって、目の前にいる人の名を呼んでも、その人が知らんぷりして、返事をしてくれなかったとしたら、どんな気持ちになるかっていうことね。
きっと、いやーな気持になるとおもうよ。あたしなんか、すごく気にするほうだから、そんなことがあったら、一日中クサクサして、たのしく仕事ができなくなると思うわ。 また昔の人のこと言うけど、『己の欲せざることを、人にほどこすことなかれ』(自分がいやだと思うことを、人にしてはいけない)ということわざがあったけど、とにかく人に名前を呼ばれたら、気持ちよくハイッと、返事をいたしましょう。
じぶんだって気持ちがいいにきまっているわよ」おばあさんは、お母さんから一枚おまけにもらったおせんべいを、バリッと半分に割って、はじめ君とカナちゃんにあげました。